皆さんはレセプトのスケジュールについてどのくらい詳しく知っていますか?
患者さんの自己負担分の請求や支払いは目に見えてわかりやすいものですが、それ以外の医療費のレセプト請求や審査支払機関からの支払いも毎月決まったスケジュールで行われています。
作成したレセプトがどのような過程を経て診療報酬の支払いに至るのか、審査後に気を付けるべき点は何か、確認していきましょう。また、開院後約1年で実施される新規個別指導についても詳しく解説していきます。
基本的に、医療機関は1ヵ月分の診療報酬請求をまとめて審査支払機関に提出することになっています。
①医療機関は当月分の請求を翌月初めから10日までにまとめて提出します。
②審査支払機関は提出されたレセプトを25日までにチェックし、記載内容が適切であると認めた請求分のみを翌々月10日までに保険者に請求します。
③保険者は請求を受けた後約1週間で処理し、翌々月20日前後に審査支払機関に支払いを行います。
④審査支払機関は保険者から受け取った報酬の支払いを約2~3日で医療機関に対し行います。
審査には2段階(審査支払機関と保険者)及び2種類(返戻・減点)あり、その審査を通過することでクリニックの収益となるため、誤りの無い正確なレセプトを提出する必要があります。
レセプトにおける不備などの理由により、審査支払機関が医療機関に対してレセプトを差し戻すことを「返戻」と呼びます。
返戻は修正が必要な不備があるため、情報の追加や訂正を行い、「再提出してください」という指示です。
では、どのようなレセプトが返戻の対象となるのでしょうか。
返戻の理由として多いものは患者情報・保険情報や診療報酬点数の相違などの入力内容の不備とされています。このような返戻は事務的な手続きで発生しているものと認識しがちですが、医師の関与によって発生している返戻も存在します。
たとえばレセプトの記入内容だけでは診療内容や傷病名の妥当性を判断できない場合返戻対象となります。このような返戻に対する対応には医師の関与が必要となります。
具体的には、返戻されたレセプト内容を確認し誤りを訂正します。また漏れていた傷病名の登録を行い、修正後に再提出し、再度審査を受けることになります。
医師にとっては、提供した医療の適切性を主張する重要な機会です。迅速かつ丁寧に対応し、早期に報酬の評価を受けることが重要です。
上記の審査プロセスを経た結果、審査支払機関が請求内容に問題があると判断し、診療報酬額を減額することを「減点」と呼びます。
減点の理由は以下のように分類されています。
(東京都医師会ホームページより引用 https://www.tokyo.med.or.jp/doctor/practicing_docs/general/15)
1.診療内容に関するもの
(1)医学的に適応と認められないもの(A)
①薬剤の適応に関するもの
②薬剤以外の診療行為の適応に関するもの
③病名が抜けていたり、間違っている等
(2)医学的に過剰、重複と認められるもの(B)
①薬剤の過剰投与に関するもの
②薬剤以外の診療行為の回数過剰、重複に関するもの
③薬の過剰、検査の過剰等
(3)(1)・(2)以外の医学的理由により適当と認められないもの(C)
①禁忌、用法外使用に関するもの、A・B以外の医学的に不適切なもの
(4)告示、通知に示された算定要件に診療行為が合致しないもの(D)
(5)縦覧点検によるもの(J)
①過去のレセプトを参考に査定されます。
例)PSA の検査は3カ月に1回算定可能であるが、先月も実施している等
(6)横覧点検によるもの(Y)
①入院分と入院外分のレセプトを照合
例)入院中の外来診療
(7)突合点検によるもの(T)
院外処方を行ったレセプトと調剤レセプトの傷病名があっているか、適応のない医薬品が処方されていないかを突合審査します。
突合した結果、請求が適応外等不適切であった場合は、調剤薬局が購入し処方した薬剤であったとしても、院外処方せんを発行した医療機関が減点されます。
2.事務上に関するもの
(1)固定点数が誤っているもの(F)
(2)請求点数の集計が誤っているもの(G)br>(3)縦計計算が誤っているもの(H)
(4)その他(K)
皆さんが行った適切な医療行為が正当に評価されるためには、適切な病名の明記はもちろんのこと、審査者になぜそのような診療が行われたのかを伝えることができるレセプトの作成が極めて重要です。
国民皆保険制度のもと、保険診療を実施するにあたり、保険医療機関は指定を受け、保険医として登録される必要があります。保険診療は「公法上の契約」に基づく契約診療であるため、医師法、医療法、健康保険法、療養担当規則、および診療報酬点数表などを順守しなければなりません。このため、保険制度が円滑に運営されるように、行政機関によって行われる指導を、保険医療機関への「指導」と呼びます。
指導大綱には、以下の3つの指導形態が規定されています。
①集団指導
②集団的個別指導
③個別指導
・新規指定(継承で開設者が変更になった場合も対象)
・既指定
ここでは③個別指導のうち新規指定のものについて解説していきます。
前述した通り、新規個別指導は通常、クリニックが開院してから約1年後に行われます。
厚生局による個別指導のプロセスは以下の通りです。
1.実施通知と指導日の告知
個別指導の実施通知は、指導日の1カ月前にクリニックに送付されます。
指導日の1週間前には10人分の対象患者名が指定されます。
2.個別指導当日
クリニックでの個別指導は、厚生局の会議室で行われます。
厚生局職員や都道府県の担当者、そして医師会から派遣される立ち合い医師が参加します。
指導日では、直近6カ月分の診療報酬の明細に基づいて書類を閲覧し、面談形式で個別指導が実施されます。
通常、指導は1時間ほどかかります。
ここで具体的な不正行為や不当な事実が疑われる場合、指導は中止され、監査に移行する可能性があります。
委任状を提出して弁護士を同席させることは認められていますが、答弁については医師自身が行います。
3.個別指導の結果と措置の通知
通常、個別指導の結果と採られる措置については1~2カ月以内に通知されます。
個別指導の評価は主に以下の4つに区分されます。
新規指導の場合は概ね妥当か経過観察ですが、指摘事項に関しては、一度支払われた診療報酬から保険者に返納する必要があります。
これを自主返還といいます。
自主返還を無くすためには、診療報酬算定に関する根拠となる、カルテ記載が重要です。
まれではありますが、不正請求などが確認され、要監査と判定された場合、その後の結果によって「注意」「戒告」「取消」などの処分が科せられます。
実際の個別指導では、以下のような具体的な指摘が行われます。
これらの指摘を避けるために、クリニックの運営においては慎重で丁寧な医療記録の管理が不可欠です。